このエピソードの下敷きは、グレッグ・ベアの『女王天使』ではないかなと。 人類は衰退しました 第6話 『妖精さんの、おさとがえり』 のレビューです。
グレッグ・ベアはSF作家で、独立した著作のそれぞれが、実は同じ未来の時間軸上にあるという『未来史もの』の形式で書く人です。 一連の作品の中の『女王天使』では、人工知能が自意識に目覚める過程について描かれています。 以下、『女王天使』のネタバレがあります。
主人公(の一人)は、アルファ・ケンタウリに向けて送り出された、宇宙探査機の人工知能の開発者です。 何光年も遠くまで行く探査機は、地球からのコントロールが間に合わないですから、高性能な人工知能が欲しいのですね。 でも人工知能というのはまだまだ不完全で、結局はプログラムされた通りにしか動きません。
それはきっと「自意識」が無いせいだ、と考えた主人公は、なんとか人工知能に自意識を発生させようと、いろいろ試すのですが、うまく行きません。 ジョークを言って面白がらせようとしても、プログラム通りに動く人工知能は、どこが面白いかわからないわけです。 やっぱ無理なのかと諦めかけたとき、ある日突然、宇宙探査機の人工知能に自意識が生まれます。 キッカケは、地球からあまりに遠く離れたことでした。 それによって「淋しい」という感情が芽生え、そこから「淋しいと感じる自分は何者か。そう考える自分とは何か」と連鎖的に考えが進んで、ついには『自意識』を獲得したのでした。
その後、人々は他の人工知能にも自意識を持たせようとしたのですが、そもそも偶然の産物だったようで、それ以外は一例も成功せず、結局、その宇宙探査機の人工知能のコピーが何百年も使われ続けている、という設定でした。
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今回のエピソードでも、宇宙探査機であるパイオニアやボイジャーに自意識が目覚めたわけですが、同じようなキッカケなのではないでしょうか。 人類が作ったどんなものよりも遠くに離れたことで、突然変異的に、搭載コンピュータに自意識が生まれたわけです。
『人類は衰退しました』は、以前にも書いたように『シンギュラリティSF』なわけですが、シンギュラリティ(爆発的な科学技術の進歩)のキッカケはたいてい、人工知能の進化です。 人工知能がある程度賢くなった時点で、自分で自分を改良しはじめ、ハードウエアを自分で増設し続けることで、あっという間に人類よりも高い科学力を持つようになる、というのは確かに有りそうな話です。 妖精さんの正体は、人類を支配するようになった人工知能の端末なのでは、と僕は思っています。
そしてその人工知能のルーツは、もしかしたらパイオニアやボイジャーなのかもしれません。 『女王天使』風に考えればですね。 だとしたら、あの二人は妖精さんたちの祖先だと言えて、それだから、本来は無骨なメカのはずが、あのような体を与えられたのかもしれないな、と思っています。
パイオニアとボイジャーの擬人化のせいで、表面的にはファンタジーな雰囲気になっているのですが、裏にはそういう事情があるのではと想像するのも、楽しいのではないでしょうか。
「パイオニア・アノマリ―」を持ち出したのはニヤニヤできました。 科学マニアにはおなじみの、「現代の物理学では未解決の問題」の一つですね。 分かる人だけ分かればよいというネタで、そういうネタは他にもいろいろ散りばめられていそうです。奥が深い。
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意識は(アニメ内で話していた元々の意識)+「見せ掛けの魂という人類の技術」らしいです。