「日本製の兵器はピーキーで扱いにくい」という設定は興味深いということを前回のレビューで書いたのですが、実際にどうピーキーなのかが今回説明されて、それがとても面白い。 トータル・イクリプス 第5話 『正しき資質』 のレビューです。
米国製の戦術機は、姿勢制御をスラスターによって力任せに行うけれど、日本製はスラスターだけでなく空力も使うのが思想の違いだそうです。 なるほどなるほど。 戦闘機を例に取れば、日本はかつて戦闘機の運動性向上のため、『CCV機』を熱心に研究していました。 写真はその実験機です。
小さな羽根がたくさんついていますが、これをコンピュータ制御することによって、機体の軸と進行方向が一致しないような、たとえば平行移動したり、まっすぐ飛びながら機首を振ったり、というUFOみたいな機動が出来るとされていました。 本来はこの技術が『F-2』に生かされるはずでしたが、F-2が米国と共同開発のF-16ベースになったので、この技術はフルには生かされませんでした。 実現していたら、日本らしい変態飛行機になったと思うのですが。
一方で米国は、『ベクタードスラストノズル』 を開発しました。 ジェットエンジンのノズルの方向を変えることで、運動性を増そうという考え方です。 F-22などで採用されています。
「米軍と日本軍の戦術機の思想の違い」は、このあたりを彷彿させるわけです。 米軍機の力任せの姿勢制御というのは、つまりベクタードスラストノズル的ですね。 制御がシンプルなので、効果が安定していて、扱いやすさと運動性を両立できるでしょう。
日本軍機の「空力を利用した制御」というのは、CCV的です。 エンジンパワーではなく空気の力を利用するので、『柔よく剛を制す』という感じでスマートですが、制御が複雑で、メリットが最大限に行かせるレンジはきっと狭いでしょう。 米国機のようにパワーで振り回そうとすると、思ったように動かないはずです。
また『不知火・弐型』は、武装強化に偏重した結果、 扱いにくくなった面もあるようです。 軍部の無茶な要求に対して、開発者が無茶な対処をしているのでしょうね。 紫電改の『自動空戦フラップ』のように。
零戦は1000馬力級の軽戦闘機で、米軍の2000馬力級の戦闘機に押されるようになったので、巻き返しのために投入されたのが、2000馬力級の紫電改です。 大型で重くなると、速度と引き換えに旋回性能が劣るのは仕方ないのですが、『人馬一体』の操縦性を求める日本海軍は、紫電改に零戦並みの旋回性能を要求しました。
無茶な要求ですが、それをなんとかするために開発された変態メカが『自動空戦フラップ』です。 空戦中の速度や加速度を検知して、必要なときに自動的にフラップを下ろして揚力を増加させ、小回りが効くようにしました。 近年の戦闘機はコンピュータ制御されている(フライバイワイヤ)ので、同様のことをやりますが、それをメカなどのアナログ制御でやってしまったわけです。 、『不知火・弐型』も、その手の独自設計によって、性能と引き換えに、独特な操縦性になっているのだと思えます。
ユウヤは唯依との直接対決で、何かを掴んだようですが、あの剣さばきは、『剣』ではなくて『刀』の使い方を体得したということでしょうか。 剣というのは、その質量を振り下ろすことによって破壊力が発生するのですが、刀は剣よりもずっと軽く作られていて、力任せではない”切れ味”が破壊力になります。 『不知火・弐型』の機動も、剣ではなく刀のさばきに最適化されているのでしょう。 そしてユウヤがそれに対応できるようになったのでしょう。
唯依がそうなるように仕向けたはずですが、でも唯依は浮かない様子でした。 なにか理由がありそうです。 兵器がらみの描写も楽しいですが、人間ドラマのほうも興味深いところですね。
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