なるほど、たしかにこれは、シンギュラリティSFですね。 人類は衰退しました 第2話 『妖精さんの、ひみつのこうじょう』 のレビューです。
SF作家の野尻抱介氏が、この作品を「シンギュラリティSFだ」と評したとのことなのですが(ソースはWikipedia)、一見ファンタジーのようなこの作品が、シンギュラリティ後の世界だという見方は、第2話見てなるほどと思えました。
シンギュラリティとは、科学技術がある時点で爆発的に進歩することです。 科学技術って、20世紀前半までに電子工学もコンピュータも原子力もロケットも理論は完成してしまい、それ以降は改良が進んだだけで、原理的なところは進歩していないと言えます。 だから、もう21世紀になって久しいのに、昔の人が予想したほどには科学技術は進んでいません。 とっくに人類は木星軌道に到達してモノリスを発見しているはずだし、レイバー犯罪が増加してパトレイバー隊が組織されているはずだし、デロリアン型の原子力カーが空を飛んでいるはずなのに。
でも、ここ数十年以内に、科学技術が爆発的に進化する日が来るはずだ、と考えている人々がいて、それをシンギュラリティと名付けました。 例えば人工知能が進化して、人工知能自身が自分を改良できるようになったら、人間とちがって容量の限度や寿命がありませんから、あっというまに高度な知能を獲得してしまうかもしれません。 そのように科学技術が自己組織化することで、”爆発的に”進歩することを言います。
そうなったら、人類はどうなってしまうのでしょうね。 繁栄を謳歌するかもしれないし、あるいは滅亡に瀕するかもしれません。 シンギュラリティ後にどうなってしまうのかを、いろいろ予想してストーリーにしたものが、シンギュラリティSFです。
「シンギュラリティ・スカイ」という、そのまんまの題名のSF小説があるのですが、これの冒頭では、ある惑星に空から携帯電話が大量に降りそそぎます。 その携帯電話は、拾った人に「私を楽しませろ、楽しませてくれたら何でも願いを叶えてあげる」と言います。 楽しませ方は、小話をするでも、珍しいものを見せるでもなんでもいいのですが、それで相手が満足すると、実際に金銀財宝でも核爆弾でも、何でも望みのものをくれるので、その星の社会は大混乱に陥ってしまうのでした。
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シンギュラリティによって、文明の進歩が行きついてしまうと、あらゆるものを原料に、あらゆるものを作ることができる究極機械(コルヌコピア・マシン)もあるでしょうから、働く必要は無く、寿命も長いので、最大の敵は「退屈」ということになるはずです。 だから「私を楽しませろ」なのです。
この作品での「妖精さん」は、シンギュラリティ・スカイでの携帯電話に相当すると思えます。 誰かの端末で、面白いことを探していて、面白ければ願いを叶えてくれる、という設定はそのままです。 影響を受けているのかもしれません。
「ひみつのこうじょう」は、あらゆるものを原料にしてなんでも合成できる『コルヌコピア・マシン』ですね。 食肉加工されたチキンが知性を持ってしまったのは、造物主のちょっとした遊びなのでしょう。 自然な進化によって獲得した知性ではないので、どうしても脆いようで、ちょっとしたショックでパニックに陥って滅亡してしまいました。 まさにチキンです。
「髪は長い友達」って、一定以上の年齢の人しかわからないネタですな。 育毛剤の宣伝でしたっけ? 「髪」という漢字が「長」と「友」から出来ているという話です。 ヒロインの髪は、今後も彼女を守ってくれそうで、彼女はなにかと贔屓されているので、この世界の核心に迫る資格があるのでしょう。
今後、どういう話になるのでしょうね。 ファンタジーに見せかけておいて、実は本格的なSFという設定を隠しているわけですが、その核心に迫る展開になるのか、あるいはこの設定の上での日常話になるのか。 いずれにしても面白ければいいのですが。
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