ドラマとしてはとてもウマいのだけれど、やきもきして辛い。 坂道のアポロン 11話 『レフト・アローン』 のレビューです。
父親の帰還による危機をなんとか乗り切って、やっと日々が楽しくなってきたところに、この展開はキツイですね。 上げて落すという。 父親(叔父)とは一応和解できたようですが、むしろこれも千太郎の重荷になっていたのかもしれません。 明らかに父親は無理をしていて、察しのいい千太郎はそれに気付いたでしょうから。
千太郎は常に、「自分は必要のない人間ではないか」という思いを抱いていました。 誰しもそんなふうに思うことはあるでしょう。 特に思春期には。 そんなときに最後の砦になるのはやはり『家族』で、自分がいなくても世界の誰も気にしないだろうけれど、少なくとも家族は必要としてくれているはずだ、という気持ちが命綱になりえます。 でも千太郎には血を分けた家族がいないわけで、とりわけ心細いのも無理はありません。 豪放磊落な見た目に似合わず、敬虔なキリスト教徒で、ロザリオを手放せないのもそのためでしょう。
このところの、好きな女性は兄貴分と駆け落ちし、幼馴染は親友に惚れているという状況は、彼を不安にさせていたでしょう。 父親の件も無視できません。 そこに、可愛がっていた妹の事故が重なって、「自分はいない方がいい人間なのだ」と思い詰めてしまうことになりました。
千太郎を立ち直らせるのは、薫しかいないのでしょう。 本心を出さない千太郎が、唯一涙を見せた相手ですから。 でも薫は、千太郎がどれだけ追い詰められていたのかを知っているので、もう帰ってこないかもしれないと、半ば諦めているようですね…
『レフト・アローン』というスタンダードの曲目は、薫の心境をよく表していますが、この曲で僕が思いだすのは、栗本薫の小説『キャバレー』ですね。 主人公は才能のあるジャズミュージシャンなのですが、思うところあって、場末のキャバレーで演奏する毎日を送っています。 ジャズはウケないのでもっぱら流行曲を演っていたのですが、あるとき強面のヤクザの男に「レフト・アローン」をリクエストされる、というところから物語が始まります。
主人公はインテリの細面の青年で、音楽家としてはエリートであり、一方でヤクザの男はガタイが良くて粗暴で、音楽の知識は無いけれどもジャズの良さはわかる、という設定で、考えてみればこの作品の二人と似てますね。 境遇も性格も違うのに、主人公がヤクザの男の信頼を得る展開も似ています。 まぁ偶然なのでしょうけれど、千太郎が家出してヤクザにならないといいのですが。
この作品の結末は忘れましたが、『レフト・アローン』というタイトルからして、ハッピーエンドでは無い気がします。 物悲しい曲ですしね。 でも千太郎は決してレフト・アローン(ひとりぼっち)ではないので、それに気付いて欲しいところです。
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