ジャズの話、というくらいの予備知識しかなかったものの、原作が高評価のようなので期待していたのですが、確かに印象的な第1話でした。 坂道のアポロン 1話 『モーニン』 のレビューです。
主人公は人から注目されることが苦手で、人付き合いのストレスで吐き気を催すということで、対人恐怖症に近いですが、元からこうでは無かったのでしょう。 思春期の不安定な年頃には、人の視線やひそひそ話が必要以上に気になったり、人付き合いが嫌になったりと言う経験は、多くの人があるのではないでしょうか。 主人公は、転校を繰り返した経歴や、人よりやや繊細な性格のために、それが多少、極端に出ているだけと思えます。 だから薫の心の痛みは、多くの人が共感できるものでしょう。
そんな薫を、二人の友人と、ジャズが変えていく物語なのでしょう。 薫のモノローグだけでは陰気な作品になってしまいますが、律子の世話好きで明るい性格が、よい対比になっていました。 薫の鬱々とした心が、律子と話すだけで晴れていく様子も、映像描写とあいまって説得力がありました。
あとは、ジャズをどう描いてくれるかですね。 僕は難しいジャズはあまり分からないのですが、父親がグレン・ミラーやベニー・グッドマンなどのビッグバンド・ジャズが好きで、レコードがたくさんあったので、子供の頃から親しんではいました。 中学で吹奏楽部に入ったのも、ジャズの影響が多分にあるのですが、実際に演奏するとなると、ジャズはすごく難しいことを思い知りましたね。 高校では指揮者をやるようになったのですが、ジャズらしい「スウィングする」ことをメンバーに伝えるのは、とても難しいことでした。
例えば1小節に四分音符が4つあったとして、それを等間隔で同じように演奏しては、ジャズになりません。 スウィングしていないからです。 1拍目と3拍目を長めに演奏することで、それっぽくはなりますが、音やアタックの強さ、デュレーション(発音時間)、さらにフレーズ全体でのリズムの揺れなど、さまざまな要素が無ければスウィング感は出なくて、それは多分に感覚的なものです。
吹奏楽部の先輩で、普通の曲ではそれほど目立たないのに、ジャズっぽい曲だと俄然はりきるサックス奏者がいました。 彼のスウィングのノリは確かに良くて、彼に引っ張ってもらうことで曲が形になったこともあったものです。 その先輩はその後、音大に行ったわけでもないのに、独学でプロのジャズミュージシャンになりました。 誰もが知っている有名ミュージシャンと一緒に、テレビに出たりしているそうです。 ジャズの才能というのは、テクニックとか理論とかではなく、天性の比重が大きいのかもしれません。
千太郎はいつもスティックを手放さない人で、体内からリズムが溢れ出るような、天性のドラマ―なのでしょう。 薫も彼のドラムに魅了されていました。 薫はどうなのでしょうね。 千太郎のドラムがすんなり体にしみ込んで、自分のリズムになったようなので、やはり天性のものがあるのではないでしょうか。
この調子だと、あと数話で終わっても良さそうな展開なのですが、このあと彼らには試練があるのだろうし、飛躍のためのチャンスもあるのでしょうね。 いい作品になりそうです。 次回のサブタイトルは「サマータイム」ということで、スタンダードジャズの曲名がタイトルになるのでしょう。
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