メルクマール

セレニティ王家の『お家騒動』の事情が断片的にしか語られていないのが、ストーリーがわかりにくい一因でしょう。　お家騒動というからには、政治の実権を握ろうとする２つの勢力があり、それぞれが王女を担ぎ出して争っている、という図式を想像していたのですが、どうやらそうではないようです。　どちらかといえば軍部などは、二人の王女の姉妹喧嘩に巻き込まれて困っていて、落とし所を探っていたのかもしれません。　弁天丸側にも「そういう事情だろう」という読みがあったので、セレニティ軍側に交渉を持ちかけることができて、利害の一致を見たということなのでしょうか。

グリューエルは人工子宮を破壊しようとしていて、グリュンヒルデは持ち帰ろうとしていました。　結果は、「人工子宮は持ち帰るが、もう使えなくなっていました」というもので、どちらの顔も立てた結末になっています。　でもこれは偶然でしょうか？　もし人工子宮が健在で、今後もバリバリ産めるのであれば、茉莉香は雇い主であるグリューエルへの背信行為を働いたことになります。　そうならなかったのは、単なる結果オーライでしょうか？

そうとは考えにくいので、グリューエルには説明しなかった裏事情があるのでは。　本当はまだ使えるのだけれど、もう使えないように細工をした、というのがありそうなセンです。　セレニティ軍にはそれはできないので、そこまで茉莉香たちがやって、軍は見て見ぬふりをするのが、手打ちの条件だったかもしれません。　想像ですけれど。

そんなわけで、ストーリーのほうはいまひとつスッキリしなかったのですが、今回の見所は、都市宇宙船「クイーン・セレンディピティ」の探検シーンでしょう。　コロニーのような都市があったり、巨大な遺伝子バンクがあったりと、なかなかのスペクタクルでした。　『都市宇宙船』というのはSFによく登場しますが、そういう一単語では語れない、ものすごい建造物だと実感できました。　文明の一つの到達点ですし、こうまでして宇宙に船出して、宇宙船の中で生まれて死んでいった人々は、何を求めていたのだろうかと考えてしまいます。

幽霊船話は一段落ですが、次回もグリューエルたちは登場するので、今回の事件についての補足説明がいくらかあるのかもしれません。　お姫様が、事件が解決した後も押しかけて仲間になるという、クラッシャー・ジョウ（同じソノラマ文庫のスペースオペラの大先輩ですが）のパターンになりそうな。　２クールだと聞いているので、今後の活躍も楽しみです。

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