メルクマール

今回も面白かったですが、まずタイトルがいいですね。　帆船時代を舞台にした海洋冒険小説にありそうなタイトルです。　実際、この作品での星間旅行はカジュアルではないようなので（茉莉香も軌道ステーションまでしか行ったことがなかった）、まだ航海が冒険だった、帆船時代に近い雰囲気があると思えます。　だからこそ、海賊ショーも旅行者の冒険心を盛り上げるイベントとして需要があるのでしょう。

戦術も帆船時代っぽいですね。　敵の戦列のまっただ中に突っ込んでいく戦法は、帆船の頃の砲戦では常套手段で、ネルソンがナポレオンの艦隊を撃破したトラファルガー海戦もそうです。　大砲の命中精度が高くないので、戦列に飛び込まれると味方への誤射を恐れて撃ちにくいのと、大砲は船の横に付いているので、横方向に射撃する方が有利ということで、有効な戦術なのでしょう。

茉莉香はすれ違いざまに斉射という、それこそ帆船のような砲撃を指示しましたが、これは、そのほうが命中精度が高いのと、なるべくなら敵に先に撃たせたいという意図があったと思われます。　この作品の設定では、何らかの理由でビーム兵器の命中率が低いようです。　チャフやデコイ（おとり）、電子戦などの攪乱技術のせいかもしれません。　なので至近距離で拡散射撃をすることで確実に当てようとしていました。

軍隊には『交戦規定』があり、決められた状況でしか戦闘することが許されていません。　海賊も軍隊に準じるということで、何らかの交戦規定はあるはずです。　公海上で宣戦布告をしていない他国の船に発砲することは、面倒な問題を引き起こす可能性があり、出来れば敵に先に撃たせたかったでしょう。　でも、敵が撃たなかった場合でも最接近時には撃つと指示することで、クルーの迷いを取り除いていました。

グリューエルが、自分が弁天丸に乗っていることを知らせたいと言い出したのは、戦闘を経験した恐怖と、弁天丸のクルーを危険に晒していることを実感したからでしょうね。　でもそれは今更な話で、だったら最初からそう公言して活動すれば、ずっと安全だったのです。　いろいろ偽装して、危険を承知で隠密行動しているのは、相手を出し抜くためで、ここぞという場面でグリューエルのカードを切らないと意味がないのでした。　例えば相手が幽霊船を見つけたところで、グリューエルが王家の権限で引き渡すことを命じるとか、そういうことを狙っているのではないでしょうか。

幽霊船を探すための探索システムは、王族の個人データが必要で、そのことを知って、グリューエルは少し怯えていました。　その理由はわかりませんが、彼女は自国の軍隊を敵に回して一人で戦っているようなもので、いろいろ不安になるのも仕方ないでしょう。　茉莉香はそんな彼女を支えてあげることが必要で、その仕事もしっかりやっているように見えます。　最初の頃に比べるとずいぶん頼もしくなったなと、微笑ましく見守っている自分は、弁天丸のクルーの視点になっている気もします。

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