メルクマール

これまで、みんなで喜翠荘を盛り立ててきたわけですが、その大黒柱である女将が裏切ったということで、「ラスボスは四十万スイ」のタイトルは、状況を端的に表していると言えるでしょう。　ではなぜ、裏切ったのでしょうか。

喜翠荘を閉じる理由を、女将は従業員には話さないので、誰も納得していません。　当然です。　でも話さないのは、話しても分かってもらえないと思っているからでしょう。

そんな女将も、緒花にだけは話します。　結局、家族の問題なのですよね。　女将は皐月に喜翠荘を継いで欲しかったけれど、それが嫌で皐月は家を出てしまった。　縁は番頭としてがんばっているけれど、女将によれば、姉への対抗心から「意固地になっている」にすぎず、そもそも旅館経営には向いていない。　自分の夢を、周囲に押し付けたことで、人々を不幸にしたのだとしたら、過ちをこれ以上広げないためにも、喜翠荘は閉じるべきなのだという考えでした。

それに対する緒花の反応は、「女将さんって、お年寄りなんですね」というもので、女将を呆れさせます。　せっかく緒花にだけは話したのに、「あなたの考えは、私にはまったくわかりません」と、キッパリと宣言されてしまったのだから、呆れるのを通り越して笑ってしまったのですね。　ヘタに空気を読まず、　わからないと言い切る清々しさが、緒花のいいところでもあるでしょう。

実際、わからなくても仕方ないのです。　緒花はまだ人生が始まったばかりで、無限の可能性がありますが、女将は、人生の総決算をする時期だから。　人生ゲームで、上がりになると決算をする、あれですね。　自分の人生の決算はどうだったのか、プラスなのかマイナスなのかと考えたときに、夫との夢を果たすことができず、子供たちにも負担をかけた自分は、人生をマイナスで終えたのではないかと。　ならば、死ぬ前に清算するべきなのだ、と弱気になっているのでしょう。

でも、そんなことは無いでしょう。　喜翠荘という場所を作って、そこに多くの人が集って、強い愛着を抱いているのだから、彼らの幸せを連結決算すれば、女将の人生はプラスのはずなのです。　それに気づくことが、必要なのでしょう。

でも従業員は、そんな女将の想いは知らないので、女将に対するクーデターが起こりそうな気運ですね。　無理もなく、緒花はその板挟みになるはずで、こういう時こそ、彼女の活躍が期待されます。

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