ユニークな作品だけれど、歴史物の醍醐味があります。 へうげもの 第6話 『武田をぶっとばせ』 のレビューです。
SFの醍醐味は、”センス・オブ・ワンダー”だと言われます。 訳すと「感嘆する感覚」となってしまいますが、遠い宇宙や、未来のことに想像力を広げて、それってすごいな、と思わせてくれるのが、いいSFということでしょう。
歴史物の醍醐味も、それとほとんど同じだと思えます。 やはり、異世界に連れて行ってくれるものだから。 異次元とか宇宙とかではなく、場所も時間も繋がっているのですが、現代から見ると異世界も同然で、「当時はこうだったんだ!」という驚きは”センス・オブ・ワンダー”です。 SFは科学の素養があるとより楽しめますが、歴史物は歴史の知識が求められることも似ています。
今回”センス・オブ・ワンダー”を感じたところは、少なくとも3点あります。 まず、佐介が大大名になりたいと渇望する理由ですね。 彼は「名茶会を開きたい」と思っているのでした。 「茶会のために命を懸けるのかよ!」とも思いますが、
右は、「近代数寄者の名茶会 三十選」という本で、この手の本はいくつかありました。 茶会が歴史に残る時代があったのです。 茶の湯が盛んだった桃山時代は、特にそうなのでしょう。 「名茶会を開く」ことが人生の目標で、そのためならば命も懸ける、という人物は、確かにこの時代には居たのかもしれません。
佐助は武勲に焦っていますが、彼の言う武勲とは、戦場で刀を振るうことではなく、使い番として敵と交渉し、降伏させることでした。 実際のところ、それがベストですからね。 自軍が傷つかないし、相手を味方にできる可能性もあります。 「よい武将」とは、実はそういうタイプで、秀吉もそうだったのではないでしょうか。 なるほどなぁと思いました。 しかしある意味、戦場で戦うよりも命懸けです。
名品コーナーも、相変わらず面白い。 名品とされた『高麗茶碗』ですが、実は朝鮮では普通に日用品で、高級でも何でもないのですね。 作りも荒く、青磁などと比べれば、技術的にもぜんぜん低いものでしょう。 2話で紹介された『荒木』もそうでした。
でも「そこがいい」というのが、侘びの美意識なのでしょう。 美を凝らしたわけではなく、自然に実用本位で作られたものだけれど、そこに生まれた偶然の美が素晴らしい、という。 確かに、梅花皮(かいらぎ)のあたりの様子は、言われてみれば、偶然に出来たにしては面白いなと思います。
これを楽しめるというのは、当時の武将や茶人の美的感覚は、すごく洗練されていたのだなぁと。 茶器って、人間国宝みたいな人が作ったものを、有難がる世界だと思っていたので、とても意外でした。
SFでは、世界観を表現するための小道具が重要で、『ガジェット』と呼ばれますが、この物語での茶道具はガジェットであり、ある意味主役ですね。
佐介は、交渉役として必ずしも誠実ではなく、口八丁手八町で切り抜けているわけですが、いつまで通用するのかな。 彼は武勲を焦っていますが、実際には「天下布武は目前」では無いことは私達は知っているわけで、今回失敗しても、挽回するチャンスはあるのでしょう。
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