改めて、この作品の切り口の鮮やかさに感銘。 へうげもの 第5話 『決意のかけひき』 のレビューです。
佐介は、「すきしゃ」や「すき」という言葉を良く使いますが、なんとなく「好き者」なのだろうと思っていたけれどそうではなく、「数寄者」と書くのですね。 芸事、特に茶道具に執心する人物のことを言うそうです。
これは、この作品のキーワードとも言えるのでしょう。 歴史を数寄者の観点から切り取った物語だからです。
『数寄』は、歴史の原因に成り得るし、結果にも成り得ます。 千宗易が秀吉に謀反をそそのかしたのは、前者の例でしょう。 佐介が茶杓をすり替えたのも、明智光秀が謀反を決意する理由の一つになったかもしれません。
「全てが揃えば天下をとったに等しい」と言う、三種の茶入は、「数寄が歴史の結果になる」例でしょう。 茶入そのものに、天下を取らせる神秘的な力があるわけはなく、佐介たちもそういう話をしているわけではないはず。 天下の名物を独占できる力があるならば、それはつまり天下を取る力があるのと同義だ、ということなのです。 事実、名品コーナーで紹介されていた『初花』は、信長→家康→秀吉→家康と渡ったのでした。 名物が権力の象徴だったのですね。
この作品は、茶道などの日本の文化にもスポットを当てるということで、ストーリーの合間に、そういうウンチクが語られるのかなと、当初は思っていました。 でもそうではなく、茶道など『数寄』がまさに中心テーマで、その切り口から歴史を描いています。 大胆ですが、それに無理がなく、確かにこうだったのかも、という説得力があります。 数寄が歴史を作ったのかも、と。 素晴らしいお手並みです。
まぁ、本能寺の変を仕組んだのが、実は秀吉と千宗易だった、という斬新な説を頭から信じたわけではないですが。 明智光秀が謀反を起こした理由は、信長に恥をかかされた恨みという説が一般的ですが、これは後世の創作のようです。 信長は普通に、明智光秀を重用していたらしい。 謀反を起こした理由については、多くの説があるけれど、決定的なものは無いのです。 ならば、千宗易陰謀説もあり得るんじゃないでしょうか。 たしかにあのオヤジは、それくらいやりかねないのかもしれません。 そのように描かれてきました。
人の命が軽く、力関係が激しく変化する戦国の世を生き延び、力をつけるには、したたかさが不可欠でしょう。 秀吉や千宗易はしたたかだし、佐介もしたたかです。 ただ、佐介は根が善人なのですけれどね。 彼が秀吉や宗易に気に入られているのは、その性格のおかげも大きいでしょう。 佐介が二人から評価されているのが嬉しいです。 彼の出世物語ですから。 佐介は、大きな茶会が開ける身分に栄達できるでしょうか。
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