メルクマール

「謎はすべて解けた。犯人はタイムマシンだ！」というオチ？は見え見えでしたが、タイムマシンは携帯電話ではなく、電話レンジ（仮）だというのが倫太郎の考えです。　ということは、最初のタイムトラベルは、 以下のような流れになります。

1. 殺害されたクリスを目撃。
2. ダルにメール。
3. ダルの携帯電話は、テスト動作中の電話レンジに接続されていて、そこにメールが着信。
4. 電話レンジから「稲妻みたいなもの」が出て、タイムトラベルが発動。
5. 同時に世界線が移動し、クリスが殺害されていない世界になった。
6. ダルに送信したメールは、送信時よりも過去に届いていた。

でも不思議なのは、倫太郎の記憶だけが、周囲の人々の記憶と矛盾していることです。　これを説明するには、タイムトラベルしたのは倫太郎だけ、ということになります。　タイムマシンの本体が電話レンジだとすれば、なぜレンジのそばにいたダルではなく、倫太郎がタイムトラベルしたのでしょうか。 　倫太郎の携帯電話がタイムマシンと考えた方が、しっくりするのですが。

一方、今回の事故のケースは、以下のようになります。、

1. 唐揚げを電話レンジに入れて、テスト動作モードで温めスタート。
2. 倫太郎の携帯電話を電話レンジに接続。
3. ダルが倫太郎の携帯電話にメール。
4. メールが着信する寸前に、まゆりがレンジのドアを開けた。
5. 稲妻が発生し、机などを破壊。唐揚げは黒こげ。
6. 倫太郎の携帯電話に着信したメールは、過去に届いていた。

この時は、タイムトラベルは発動したのでしょうか。　メールが過去に届いたということは、発動したのだと思えますが、記憶との矛盾は起っていないようです。　世界線は移動したけれど、元の世界とあまり違わない世界だった、ということでしょうか。 　あるいは、倫太郎の携帯電話だけがタイムトラベルした？

ゲルバナナがテレポートしたケースでは、以下のようになります。

1. バナナをひと房ちぎり、電話レンジに入れる。
2. 電話レンジに携帯電話からメールをする。
3. 電話レンジがスタート。
4. 終了したのでドアを開けると、バナナは消えていた。
5. 机の上のバナナに、ちぎったはずのバナナの房が移動しており、ゲル化しつつ、もとの枝にしっかり繋がっていた。

このとき、稲妻が発生していないのはなぜでしょうか。　手順が上の2つとは違って、テストモードではなく通常モード（携帯電話のメールで起動）だからでしょうか。

あるいは、ここでタイムトラベルしたのは、実は倫太郎とダルで、稲妻と同時にタイムトラベルしたので稲妻は見なかった、という可能性があります。　なぜ二人がタイムトラベルしたかといえば、倫太郎の携帯電話の至近距離にいたから。

つまり、タイムマシンの本体（サーバー）が電話レンジで、実際にタイムトラベルする端末（クライアント）が倫太郎の携帯電話、ということなのかな。　それで辻褄が合うような、合わないような。　まだ隠された真実があって、それが明らかになったときに、すべて繋がるのでしょうか。

SERNがタイムマシンの技術を独占していて、世界を支配しているという、絵にかいたような中二病的陰謀論になってきました。　まぁ、ジョン・タイターが言っていることそのままですが。　

SERNのモデルは、もちろんCERNですね。実在の研究施設で、世界最大の量子加速器『LHC』を持っています。　世界中から研究者が集まっているので、研究論文をコンピュータネットワーク上で公開・閲覧できる仕組みを開発したのですが、それが今のWWW （ワールドワイドウェブ。いわゆるウェブ）になりました。

CERNがブラックホールを作って地球が飲み込まれる、というネタは、しばらく前に話題になりました。　実際に訴訟になったりしていますね。　CERNは、マイクロブラックホールが作られる可能性を、否定はしていないはずです。　でも、たとえ作られても、ブラックホールに地球が吸い込まれることは無いはず。　ブラックホールは永遠に物を吸い込むわけではなく、蒸発してやがて消える性質があり、CERNで作ることができるのは、すぐ蒸発するような微少なものだからです。

でも、「加速器のせいで世界がやばい」というのは、SFとして魅力的なテーマのようで、ロバート・J・ソウヤーの『フラッシュフォワード』は、まさにCERNの事故によって、世界中の人々が一斉にタイムトラベルするという話でした。 　機本伸司による『神様のパズル』も、加速器でとんでもないことが起る話です。　この小説は面白いのでお勧めですよ。

神様のパズル (ハルキ文庫)
	機本 伸司 角川春樹事務所 2006-05 売り上げランキング : 38807 Amazonで詳しく見る by G-Tools

しかし、CERNの陰謀という話は胡散臭すぎて、それがこの物語の骨格だとしたら薄っぺらすぎるので、これはミスリード狙いであって、真相は別にあるのではという気がしています。　いろいろ辻褄が合わないように見えるのは、そのせいなのでしょう。　今後の展開を注視する必要があります。

これまで、キャラに思い入れが持てなかったのですが、今回のクリスは良かったな。　バナナの件でからかわれて赤面したり、まゆりと仲良くなって嬉しそうだったり。　クールな表情の下に人間味が見えて、魅力が出てきました。　これまで倫太郎がボケっぱなしでしたが、クリスがツッコミ役になったことで、会話の座りがぐっとよくなりました。　タイムマシンと聞いた時の動揺ぶりからして、彼女にも秘密がありそうです。

"Human is dead." という、CERNの実験結果を、倫太郎は「人が死んだ」と訳しましたが、単数形なのが気になります。人が一人だけ死んだのか、あるいはHumanは「人類」の意味なのか…

ポチっとして頂けると励みになります！↓