というのも、ストーリーは思ったよりヒネリが無かったですからね。「幹久は女だった」というのが最大のネタで、その後は後片付けのような話でした。なんだかんだで、八方丸く収まった(?)のはうまいですが。
『冬虫夏草』のイメージは良かったなと。冬虫夏草とは菌類の一首で、ある種の蛾の幼虫に寄生して、土の中で何年も幼虫の養分を吸い続け、やがて幼虫を殺して発芽します。王子が持っていた標本の、下の方の塊が蛾の幼虫ですね。こちらに写真があります。→冬虫夏草(ややグロいので注意)
冬虫夏草に罪は無いものの、それがグロテスクに感じるのは、宿主を何年もかけて少しづつ殺し、最後に体を喰い破るという残忍さでしょう。マクバク族を、それになぞらえています。交配した種族がゆっくりと滅びゆくのを見ることが、彼女たちにとって悦びだという。それも一種の養分になるのかもしれません。
彼女たちの宇宙船は、絢爛と輝いていて、豪華な結婚式場のようで、女性たちも美しいのですが、それは見せかけで、グロテスクに変化していきます。その美術が素晴らしいなと思って見ていました。
あと、ラスト近くで、サキ王女とクローン幹久が出会うシーンが、とても綺麗ですね。偽りのシーンなのに、すごく力が入ってて、それも皮肉が効いています。
女性なのに、遺伝子レベルでは男性にも近い、という人は存在するのでしょう。半陰陽と呼ばれ、生まれつき性の分離が不完全で、女性なのに男性器状のものがあったりして、子供のころに性別を間違えられることもあるようです。新井素子の『二分割幽霊奇譚』は、その境遇の人を主人公にした小説でした。子供のころから男として育ってきて、心は完全に男性なのに、思春期に生理が来て女性だとわかった、という。いろいろ生き辛いでしょうね…
ところで、地球人のクローンを作ったり、遺伝子をいじったりすることは惑星条約で重罪になるそうですが、マクバク族のウイルスはいいんでしょうか。ひどいウイルス兵器に見えますが。考えられるのは、何らかの理由でマクバク族は優遇されていて、他の種族を滅ぼすほどのフリーハンドを与えられている、ということですね。それは何か。
冬虫夏草は上質な養分を溜めこんでいるので、希少な生薬として高価で取引されます。冬虫夏草は残忍だけれど、それを食う人間が一番残忍だとも言えます。マクバク族も、養分を集めるために生かされているが、結局それを別の種族から食われる立場だったりしてね、とか想像しました。
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前回のモービルアクションとか無駄にオリジナル展開で尺を埋めるくらいなら必要な説明をカットしなきゃいいのに…その辺の脚本さんのセンスは分かりかねますね
・マクバク族は交配相手が悉く絶滅していってるが表向きには悪玉ウィルスの存在は証明されてない(相手を意図的に滅ぼしてるなんて公言するわけないし)
・マクバク族の体内にある免疫システムで幾つも特効薬とかを作ってて、難病に苦しむ大国に薬と引き換えに宇宙連合加盟の根回しをした結果いまでは保護される立場(宇宙連合加盟国)に上手く収まっている(だから勝手にマクバクの体を調査とか出来ないことになってる)
・サキ王女達の世代が人間型に近い外見なのは前女王の交配相手が人間型だったから(地球人と交わることで次世代はさらに人型に近くなるのかな?)
なるほど、ちゃんとそういう設定があったのですね。それで納得しました。
というか、これはちゃんとやらないとダメだったと思えます。物語としての深みに関わりますから。冬虫夏草がマクバク族を象徴している意味も、よくわかります。
交配相手の種族によって、次の世代の形が変わる、というのは面白いですね。
■みうらさんコメントありがとうございます!
なんと、見返してみたら、確かに「1/3ゆうれい戯譚」という本がありますね。気がつきませんでした!
ちょっと『二分割幽霊奇譚』を思わせるなーと思って、何気なく書いたのですが、そもそもリスペクトしていたわけか。
古い本だし、新井素子の著書の中ではマイナーなので、若い子は知らないでしょうね。この本の設定は、当時の僕には鮮烈でした。