1話のレビューにも書いたのですが、この作品はオッサンがとてもいいですね。今回はダグザ中佐が目立っていましたが、オットー艦長も味があるし、スベロア船長はプロフェッショナルな冷静さと情の深さを兼ね備えているし、ギルボアもいい人でした。
オッサンたちは、生き生きしているだけでなく、主人公のバナージに影響を与えます。彼はダグザ中佐からは戦う覚悟を学び、オットー艦長からは戦う責任を学び、ギルボアからは戦う哀しみを学びました。そうやって成長していく物語なのでしょう。
これは、旧来のガンダムとは違う手法だと思えます。ガンダムUC以前の、ファーストガンダムやZガンダムなど(宇宙世紀の)ガンダムの主人公にとって、大人は学ぶべき相手ではなく、対立して打ち負かす相手でした。カミーユの「そんな大人、修正してやる!」が象徴的です。その対立構造は、根本的には解決しません。
その”子供と大人”の対立関係は、そのまま”ニュータイプと旧人類(オールドタイプ)”の対立関係を映していると思えます。『新しい価値観』 対 『既得権益に縛られた古い価値観』の対立なので。 アムロやカミーユは、心情的にはニュータイプでありながら、社会的には旧人類側についているという矛盾に、終始悩んでいました。子供と大人の対立がそうであったように、ニュータイプと旧人類の対立関係も、物語としては解決しないままです。それは人間の永遠のテーマとして、制作者が視聴者の前に投げ出しているのでしょう。
一方でこの作品は、子供であるバナージと、他の大人たち(オッサンたち)は、必ずしも対立関係ではなく、反発しつつも互いを受け入れ、高めあっています。これはつまり、ニュータイプと旧人類の融和を象徴しているのでしょうか。この物語のゴールはそこでしょうか。
ユニコーンガンダムに搭載された『NT-D』の正体は、対ニュータイプ兵器でした。ニュータイプのサイコウェーブに反応して、それを無効化し、ファンネルを乗っ取ることもできるという。これは旧人類によるニュータイプ殲滅の野望に見えますが、それだけではないのかもしれないと、マリーダとダグザ中佐が語っていました。
マリーダ 「自分を見失うな。それがお前の根っこ。あのガンダムの中に眠る、もう一つのシステムを呼び覚ます力に。あれにラプラスの箱が託されたのは…」
ダグザ 「ジオン根絶のための殺戮マシーンなどではない。それとは違う何かが、このユニコーンには組み込まれている。それを制御するのはたぶん、生身の心だ。それがラプラスプログラムの正体なのかもしれん。乗り手の心を試しながら、箱へと導く道標。」
違う陣営なのに、ほとんど同じ事を言っているようです。戦士としての直感が、そう言わせたのでしょうか。だとしたら、ユニコーンガンダムは表向きはニュータイプ殲滅兵器でありながら、実は”ニュータイプと旧人類の融和”を可能にするものなのかもしれません。例えば、ニュータイプ同士の「誤解のない相互理解」を旧人類にも広げるとか、そういうものを想像します。ダブルオーっぽくなってきましたが。
バナージは、必要なら戦闘はするけれど、無益な人殺しはしたくないと考えています。ダグザはそれを甘いと言いますが、彼の戦闘を忌避する気質が、ユニコーンガンダムの乗り手として必要な資質だとも思えます。一風変わった、ロボットアニメの主人公になりそうです。
とにかく、今回は面白かったですね。やはり、主人公機が活躍するとスカッとします。映像もいつもながら素晴らしい。モビルスーツ戦って、宇宙空間なのに、上下が決まったような構図になりがちなのですが、この作品の場合は、上下が逆さまに描かれたり、足の裏側から描かれたりというように、3次元空間で縦横無尽に戦っている様子が表現されています。今回、モビルスーツにCGも使われているように見えましたが、格闘シーンは手書きですよね。細部まですごいクオリティ。
ミネバの出番が少なかったのが、唯一残念な点です。でも、短いけれど登場シーンは印象的でした。再会したのも束の間、また離れ離れになってしまい、すれ違いのドラマになっています。今後、バナージとミネバの運命は、どこで交錯するのでしょうか。
感想はここまでにして、ここからは、作品中でピピッときたSF的なディティールについて、つらつら書きたいと思います。
■推進剤
リディの、「推進剤を使いすぎた。あのマスドライバーを利用させてもらう」と言うセリフに、僕は小躍りしました。ガンダムシリーズで推進剤について言及されたのは、もしかしたら、これが初めてかもしれないからです。
宇宙空間で移動するには、何かを噴射して、その反動を利用する必要があります。化学燃料ロケット(現代のロケットのほとんど)の場合は、ロケット燃料をそのまま噴射するのですが、モビルスーツの動力は原子炉なので、原子炉の燃料とは別に、なにか噴射するもの、つまり推進剤が必要な筈なのです。でも、MSが推進剤を搭載しているという描写は、見たことがありませんでした。ここで、推進剤があることがはっきりしたわけですね。推進剤の実体はわかりませんが、効率や扱いやすさの点で『水』の可能性が高いのでは。H2Oですね。
推進剤が話題にならないのは、通常の運用では、推進剤不足になるケースが少ないからなのでしょう。モビルスーツは母艦で運ばれ、短時間戦闘して帰艦するので。でも今回のリディは、かなりの距離を単独航行する必要があり、推進剤不足が顕在化したわけです。
マスドライバーは、ガンダムシリーズにしばしば登場しますね。宇宙空間で物資を輸送するための、大型のカタパルトです。 いわゆる『スペースコロニー』の概念を提唱したのは、アメリカの物理学者のジェラード・K・オニールですが、マスドライバーも、スペースコロニーを製造するためのツールとして、彼が発案したものです。月面や小惑星で、スペースコロニーの材料となる鉱石を掘り出し、精製し、それをマスドライバーで打ち出すという。
パラオは資源採掘用の小惑星なので、当然マスドライバーがあり、リディはそれを利用したというわけです。
■デバイスドライバ
バナージがユニコーンを奪って、パラオから脱出するときに、武器を使おうとしてもしばらく待たされました。画面に『weapon device driver converting』と出ていましたね。おそらくあの武器は、本来のユニコーンの装備ではなく、ネオジオンの装備をかっぱらってきたのでしょう。コンピュータの周辺機器のように、その武器のためのデバイスドライバをインストールする必要があるようですが、鹵獲した武器には無いので、その場で解析して、デバイスドライバを生成する仕組みがあるのかもしれません。
『フルメタル・パニック』では、敵側の武器には暗号でロックがかかっていて、奪っただけでは使えないのだけれど、搭載AIがハッキングしてロックを外すという描写がありました。それに近いことも、やっているかもしれません。
■MS間の接触通信
ガンダムシリーズでは、モビルスーツでの戦闘中に、敵味方のパイロットが会話するシーンがよくあります。ニュータイプ同士ならばサイコウエーブで可能ですが、普通の人の場合はどうするのでしょうか。今回、バナージとマリーダが会話していましたが、このとき、バナージ側のコックピットのパネルに『contact com』と表示されていました。『接触通信』という意味でしょう。
宇宙空間は真空なので、声は届きませんが、互いのヘルメットなどを接触させると、振動が伝わって声を聞くことができます。モビルスーツの『接触通信』も、それに近いもので、互いに接触していれば声が届く仕組みがあるのでしょう。特に救難の時に必要そうなので、敵味方でもオープンな回線になっているのではないでしょうか。
リディたちとバナージが会話したときも、リディ機がユニコーンの一部を掴んでいました。無線で通信すると母艦にも聞こえるので、それを避けるために接触通信を使ったのでしょう。
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