メルクマール

これまでミズノは、この作品でいちばん幸せなキャラでした。天真爛漫で、タクトにはラブラブで。でも今やミズノは、この物語でもっとも追い込まれた、不幸なキャラでしょう。この落差は凄まじく、容赦ありません。

母親が戻って来たことに動揺し、タクトの想い人に気づいてショックを受け、母親のことでマリノと対立し、そして、島を出られないという運命について知ってしまった。それが立て続けに起こりました。

中でも、マリノと対立したことがキツかったと思えます。ミズノは、母親が居なくなった時もサバサバしていましたが、それは、母親に捨てられたというトラウマから自分とマリノを守るために、「母親なんて居ない。自分とは関係ない」と考えることにしたのでしょう。ミズノはマリノよりも強いので、それに成功して、母親にこだわるマリノを励ましてきました。どちらかといえば、ミズノがマリノを守っていたのです。

マリノは、自分がミズノの保護者だと思っていますが、マリノがミズノに依存しているのが実態です。この世界に確かなものが無くて、「ミズノを守る」ことだけが、彼女の存在意義になっているから。

でもマリノは、訪ねてきた母親に会ってみようとして、その口実として、ミズノに「本当は会ってみたいんでしょう」と言います。マリノにとってミズノはいつまでも、小さな子供なのですね。そしてこの言葉に、ミズノはキレました。これまで、マリノに「ダメダメなんだから」と子供扱いされても、笑ってかわしていたのだけれど、これにはガマンできず、「お姉ちゃんぶって、分かったふうなことを言うなよ！」と。　唯一の理解者であるはずの姉も、本当のところは分かっていないという、孤独感を感じたことでしょう。

そして、巫女の宿命について知ってしまったのですが、そのことを教えられていなかったことが、一層ショックだったように見えます。なぜ誰も教えてくれなかったのかと。ワコは小さいころから教えられていたのに。

今や、ミズノの理解者は誰もいないのです。マリノとはわだかまりがあるし、ワコには相談できるけれど、母親のことは相談できず、そもそも恋敵です。そしてタクトにも想いは伝わりそうにない。自分は一人ぼっちで、とても不幸だという心境でしょう。

そんな弱った心に付け入る輩は、どこにでもいます。『幸福を呼ぶ壺』を売りつけるとか。ミズノの元にはケイトが現れて、願いを叶えてあげると甘言を囁きました。ミズノはその誘いを断れないでしょう。あんなに幸せそうだったミズノが転落する様子に、胸が締め付けられるような、でももっと堕ちるところを見たいような、相反した感情があります。

ミズノが島を出ようとしたときに、何度も朝に戻されたのは、どういうカラクリでしょうか。古代銀河文明の力なのでしょうけれど、考えられるのは『因果律操作』ですね。原因の後に結果があるという、当たり前の法則が因果律で、あらゆる科学理論の基礎ですが、量子力学の世界では、因果律が破れて、原因の前に結果が起こったりすると言われています。それを推し進めれば、因果律を操作する装置を作ることができるかもしれません。

ミズノが島を出ようと決心するのが「原因」で、実際に島から出るのが「結果」ですが、その因果律に干渉して、結果を無かったことにすれば、時空は原因の時点に戻ります。でもミズノの意識は因果律操作から外れているようで、記憶を残していました。永遠にループするのを防ぐためでしょう。

因果律操作は、禁断のテクノロジーですね。最強の兵器ですし。戦争に負けても、その結果を無かったことにしてやり直すことができるわけです。為政者が過去の歴史をねじ曲げて、都合よくするのも思いのままです。何が正しくて、何が操作された結果なのか、わけがわからない世界になるでしょう。

核兵器は、文明を滅ぼしかねない厄介な発明ですが、使うと証拠が残って報復されるので、抑止力が働きます。一方で因果律操作は、使っても証拠が残らないので（使ったという事実そのものを消せるので）、使いたいという誘惑を抑えることはできないでしょう。因果律操作を手に入れた文明は滅びると思えます。古代銀河文明を作った人々が、もう地球に居ないとしたら、滅びてしまったのかもしれません。あるいは、滅びた後の末裔が人類なのか。

まぁ考えすぎかもしれませんが、いずれにしても「古代銀河文明スゲー」と思った回でした。綺羅星十字団が欲しがるのは無理もないし、手に入れると人類ヤバいと思えます。やはりタクトは頑張るべきでしょう。

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