メルクマール

魔法少女ものは、本来は女児向けの作品ですが、これは深夜アニメなので、青年男性が主なターゲットでしょう。似たコンセプトの作品として『魔法少女リリカルなのは』があり、実は僕は観てないのですが、魔法少女ものの様式を採りつつも、ハードなアクションやSFテイストを取り入れたものだと聞いています。

この作品も、なのはと同じ新房監督の作品ということで、やはりユニークな魔法少女ものになりそうですが、どういう方向性でしょうか。なのはと同じことは、やらないと思うのですが。

映像で気付くのは、まず日常シーンがすごく無機質なことですね。自宅は広大で綺麗すぎるし、街は清潔な公園のようだし、学校は近代的なオフィスのようです。まるで生活感がありません。「これは本当に現実世界なんだろうか」という疑念が湧きます。

そして、戦闘シーンでは異世界になりますが、その世界のコラージュのような映像は、ファンタジックというよりもグロテスクですね。横尾忠則の絵のような。　また、マミと呼ばれた少女の戦闘は、大量の銃で一斉攻撃するという容赦無いもので、普通の魔法少女のイメージとはずいぶん違います。

そしてキュウべぇの言葉ですね。契約をしろと。そうすれば、「君たちの願い事を、なんでもひとつ叶えてあげる」と。これではまるで、悪魔の誘惑ではないですか。

魔法少女ものでは、魔族から世界を守る的なストーリーが多いですが、でも考えてみれば、「魔法少女」と可愛く言っても魔女ですから、要は魔族なわけです。魔法少女は、必ずしも人類の味方では無いのでしょうか。

まどかの家族の描写が、とても細やかでしたね。まどかがタオルを手探りで探して、母親がさりげなく手助けするところなど。　実際母親って、何をしていても、子供のことを意識しているようです。子供が寝ぼけて布団を蹴飛ばすと、自分も寝ているのに、なぜかすぐに気付いて布団を掛け直したり。子供はお腹の中では母親と繋がっていたので、産んだ後も何かで繋がっているのかもしれません。そんな、親子の情愛を感じました。

だからこそ、不安なのです。幸せそうな家族を描くのは、魔法少女ものではセオリーです。女児の願望を表現しているでしょう。でもこの作品は、容赦なくそこもブチ壊してきそうな気がして。

ほむらと保健室に行くシーンで、まどかが「珍しい名前だね」と言ったとき、ほむらは唇を噛んでいました。そして、「あなたは自分の人生が尊いと思う？家族や友達を大切にしてる？」と聞きます。実に意味深です。　この様子からして、ほむらとまどかは、昔（前世？）はごく近しい間柄で、一緒に戦っていたのでは。ほむらはそれを覚えているが、まどかは何らかの理由ですっかり忘れて、今は幸せに暮らしていると。　ほむらは、そのことを確認して、今が幸せならそのままでいろ、と忠告したように見えます。彼女にとっては悔しそうでしたが。

そうなると、果たしてこの世界や、あの家族は現実なのだろうか、という疑念に繋がるのですよね。とにかく、この作品は普通の魔法少女ものと考えてはいけないのでしょう。蒼樹うめの癒し系の絵に騙されてもいけません。ある種、グロテスクな世界を容赦無く描こうとしているように見えるのです。

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