メルクマール

「人当たりのいい委員長」も、「コワモテで打算的な人格」も、どちらも絢辻詞が外向けに演じている人格（ペルソナ）なのだろうと、これまで書いてきました。彼女の根っこにあるのは、生真面目で脆い、繊細な人格だと。

でも、それは少しニュアンスが違っていたかもしれません。そのどれもが、絢辻詞なんですよね。人は誰でも、相手やシチュエーションによってペルソナを使い分けるもので、綾辻さんは、その振れ幅がやや大きいだけとも言えます。

彼女がコワモテのペルソナを「あの子はいなくなっちゃった」と言って無かったことにした理由は、それがうまく行かなかったからです。クラスで孤立してしまったし。純一には分かってもらえると思っていたのに、クラスメイトに謝りたくないと意地を張るのを、「らしくない」と言われてしまった。彼女としては、それが自分らしいと思っていたのに、純一に否定された思いがしたのでしょう。精神的に追い詰められていた彼女は、その”失敗した”ペルソナを封印することで、自分を守ることにしました

でもクリスマスの日、純一に「意地っ張りな綾辻さんも好きだった」と言われて、今さらそんなこと言うなよ！とキレたのでしょうね。　しかし、純一としては矛盾していなくて、「猫をかぶった委員長」と、「意地っ張りな人格」とを、上手く使い分けるのが綾辻さんらしいと思っていたのです。全部ひっくるめて、綾辻さんなんだからと。その思いは、最終的には伝わりました。

彼女が、自分を追い詰めてまで、創設祭の成功に打ち込んでいたのは、それが子供の頃からの夢だったからです。クリスマスに、人々を幸せにすると。そして一応、創設祭は成功したけれど、彼女はまだ満足していません。小さい子どもには、楽しんでもらえなかったので、何か足りなかったのではないかと。

純一は、そんな彼女に、「来年も再来年も、クリスマスはまた来る。そのたびに、みんなを幸せにすればいいんじゃないか」と言いました。末永く一緒にやろうというメッセージですね。だから、僕のことも幸せにして欲しいと。そして十年後の創設祭には、幸せな家族の姿がありました。「ねえ純一、いま幸せ？」と聞いて、「もちろんだよ」と返事をもらったことで、彼女の夢は叶ったのでしょう。

クリスマスらしい、ハッピーなストーリーで良かったんじゃないでしょうか。クリスマスって、恋人同士のイベントみたいな、妙なイメージもあるけれど、本来は子供のためのイベントであり、大人にとっては、サンタクロースを信じていた頃のような、童心を思い出す日なんですよね。親がサンタクロースを演じるのは、子供にはそういう思い出が必要だと思うからです。　綾辻さんの幼い頃の決意から始まって、自分の子供に思い出を与えることで終えるエピソードは、綺麗にまとめたと思えます。

しかし、綾辻さんのバックグラウンドはなにかと謎のままです。あの体術は何なのだろう。姉との確執も、特に説明されないままだし、子供の頃のクリスマスの出来事も「秘密」でした。そのあたりは想像の余地を残しているのかな。原作ゲームでは語られてるのでしょうか。そういえば、PSP版が1ヶ月後に出ますね。買ってみるかな。

ポチっとして頂けると励みになります！↓