メルクマール

比較的地味なストーリーでしたが、「現実世界（リアル）と内面世界の関わり」がテーマだったので、この作品全体のテーマに関わっているのでしょう。　栞は現実世界と関わりたいのだけれど、人とうまく付き合うキッカケがつかめず、内面世界に逃げ込んだのでした。

図書館には縦長の窓があって、その前に栞がいるシーンが印象的です。この窓を見ると、雲龍院の『悟りの窓』を連想します。

禅において、円は宇宙を現わすので、丸い窓は宇宙を映していると考えます。雲龍院で面白いのは、その後ろにある障子によって、円が四角く区切られたように見えることですね。　完璧な”円”に対して、”四角”は心の迷いを現わすとされます。

人は、自分の心を通してしか、外界（宇宙）を見ることができません。つねに、自分というフィルタがかかっています。自分の心次第で、外界は恐ろしいものにも、親しみやすいものにもなります。雲龍院の『悟りの窓』は、それを現わしているように思えますね。

栞は、図書館のレンガの壁や、積み上がった本によって外界を遠ざけながらも、本当は外界（現実世界）と関わりたいと思っていて、それを図書館の窓が象徴していました。それは部屋全体を照らすほどの明るさではないけれど、確かに窓は開いていたのです。

桂馬は、「実は現実世界で人と関わりたい」というい栞の気持ちがわかっていたので、それを指摘しました。また、人と近付くことは怖くないと教えるために、優しくキスをして背中を押しました。頭のいい栞には、それで十分だったようです。 委員長たちと話すシーンでは、栞は窓の前に立って、窓が彼女を照らしていました。彼女の現実世界への窓は、大きく開かれたのでしょう。

でもこのエピソードで、桂馬は救われていません。彼としては実は、栞の「私もずっと、静かにここで暮らしいだけなの」というセリフに対して、「それは嘘だね」と言わないほうが、ハッピーになれたのです。栞に同意すれば、リアルを拒絶して内面世界に生きる同志として、栞といいパートナーになれただろうから。栞もそれを望んでいました。

ラストシーンで、桂馬はなにやら上の空でしたが、あれは、またとない同志を得るチャンスを失ったことを、残念に思っているのではないかな。そして、内面世界から現実世界に足を踏み出した栞を見送って、思うところがあったのでは。「リアルなんかくだらない」というポリシーが、揺らぎつつあるのかもしれません。次回の最終回で、その核心に迫ることになるでしょうか。

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