メルクマール

栞は対人コミュニケーションがとても下手ですが、それは頭の回転が鈍いからではなく、むしろ考えすぎるからでした。すごくわかります。僕も、人から「そっけない」と思われることがままある（あった）ので。　話かけられて返事をするときに、相手の時間を無駄にしては悪いと思って、言いたいことをなるべく簡潔に伝えることが善だ、と思っていたのですね。

そのために、会話の流れを頭の中で予想して、論理を整理して、推敲して、結論だけを言う、という会話スタイルが癖になっていました。でもそれでは、コミュニケーションというよりはプレゼンテーションです。コミュニケーションとは、思考の流れも相手と共有して、一緒に考えることなのです。結論だけ話してもダメで。

栞も、相手に変に思われたくない、気にいられたい、という気持ちから、考えすぎてしまうのでした。自意識過剰ですね。彼女を攻略するには、自意識から解放される状況を作るべきで、桂馬が取った作戦は、「嫌われる」でした。　

相手に好かれたいと思うから、自意識過剰になるのです。嫌われてもいい相手ならば、素の自分を出してもかまいません。　「ありがとう」は言えないのに、「バカ」は言えるというのは当然なんですよ。説得力のある戦術だと思えます。

次の作戦は、相手との共通点を見つけ出して、共感を得ることですね。桂馬は、本の有用性には懐疑的だけれど、図書館の雰囲気は好きで、そこは栞と共通しています。外界との関わりに幻滅して、内面世界で充足しているという点で、二人は似た者同士だから。

でも桂馬は、内面世界で学んだことを、外界の行動に結びつけることができるので、まだ救いがあります。桂馬は栞を救うことができるでしょうか。

しかし、桂馬の肝臓のたとえ話は、あれ伝わったのかな？　肝臓が、病気になっても痛みを感じない「沈黙の臓器」と呼ばれているからですね。彼も、頭の回転が速すぎて、言ってることが分かりにくい人のようだ。

サブタイトルの「あたしの中の……」は懐かしいな。新井素子さんにハマっていた時期があるので。SF作家で、現・SF作家クラブ会長であらせられますが、くだけた文章が特徴で、ラノベ作家の元祖とも言われています。　「あたしの中の……」は新井素子さんが高校生の頃に書いたデビュー作です。そういえば、前回のサブタイトルの「大きな壁の中と外」も、彼女の短編の作品名でした。

なぜ、新井素子さんなのでしょうか。彼女の作品はコメディも多いですが、「静謐な中の狂気」を表現した作品もあり、そういう作品では、「頭の回転は速いけれど、コミュニケーションが下手」なヒロインが登場します。「ひとめあなたに…」の圭子など。それは作者自身を投影してると思えて、そのあたりのイメージから来ているのかもしれません。 「ひとめあなたに…」は名作で、解説で星新一氏が「天才」と褒めちぎっています。

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アニメの話に戻しますが、テンポはやや遅いけれど、ヒロイン攻略の段階を丁寧に踏んでいて、説得力があるので、これはこれで良いのだと思います。栞の内面もしっかり描きました。ここから、どうクライマックスに繋げてくれるのか、とても楽しみです。

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