メルクマール

同じ物語を、視点を変えて何度もリプレイすることで、物語の全容が見えてくるという手法は、ゲームではしばしば使われます。チュンソフトの『街』や、『428 ～封鎖された渋谷で～』などが有名。　

アニメでは『デュラララ！』が思いつきます。あと、部分的に使われることもありますね。あるシーンを、主人公とヒロインの視点でリピートする使い方は、例えば『true teas』にありました。

つまり、ミステリやラブストーリーに向いた手法だと思えますが、この作品はラブコメに適用しました。「好きな人のために料理を作るが失敗する「という、ベタベタなラブコメです。それを、これだけ凝った話にできるのだから、たいした手腕だと思えますね。

この手法の利点は、謎解き的な面白さのほかに、各キャラの心情を一人称でじっくり描けることもありますね。エルシィの健気さや、桂馬の優しさが描写されていました。

また、お母さんが良かったな。「私は昔よりはるかに強いのよ。パパのいない家を、一人で守っているんだから」というセリフにちょっと感動。『パパ』はずっと海外にいて、ほとんど母子家庭のようなものなので、女手一つで家を守り、桂馬を育てるのは大変だったでしょう。そんな、彼女の歴史が伝わってきました。

謎の弁当が発端で、謎の弁当でオチが付くという構成が、スパイスが効いています。ラストは『弁当視点』ですし。弁当は、エルシィに創られたことで、エルシィに忠誠を誓っているのでしょうね。エルシィが留守の間は家を守るという使命感から、ドラゴンと戦ったのでした。

しかし、あのドラゴンには害意はあったのでしょうか？　顔は怖いけれど、特に乱暴はせず、イチゴを食べたくらいでした。エルシィに構ってもらいたいだけにも見えます。他のモンスターも同様。鳥は、卵から孵化して最初に見たものを、親と思いこむと言われます。

そう考えると、ドラゴンにとっては切ないストーリーですね。あの弁当箱の中は亜空間に繋がっていて、ドラゴンは本来の住処に帰り、幸せに暮らしていると思いたいところです。

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