メルクマール

シュージンはあらすじをたくさん書いてきますが、「あらすじで面白い」って難しいですよね。例えばドラゴンボールなら、あらすじは「願いを叶えてくれるという宝を集める話」であり、それだけ聞いても超スーパーヒット作になるとは思えません。漫画にして面白そうなあらすじを選ぶ、という点で、サイコーにもセンスが問われます。

前の『ふたつの地球』と比べて、『一億分の』は、話としてはシンプルです。いわゆるディストピアもの（一見理想社会だが、厳しい管理によって人間性が抑圧されている社会を描くSFのジャンル）で、B級のSF映画や漫画によくあるタイプ。

でも、漫画（特に少年漫画）のストーリーというのは、構造が凝っている必要は無いんですよね。要は、主人公が敵と戦うための、納得できる設定があればよいわけで。それよりも、キャラクタ設定や、戦闘のロジック（どう戦って、どう決着が付くか）のほうが重要です。そのあたりの勘所が、分かってきたのでしょう。

一方で、サイコーの絵は、たしかにまだ改善の余地がありそう。石沢に貶されますが、彼の言う事にも一理あります。漫画の絵って、デッサンがうまいとか、難しい構図が描けることよりも、「キャラクが魅力的である」ことが重要だと思うんですよね。プロでも、同じ向きの顔しか描けない人はいたりしますし。

ストーリーの話と通じるものがあります。「技術が高い」に越したことはないけれど、まずは「魅力的である」ことが重要。なので例えば、まずはサイコーが描きたいキャラを描いて、それにストーリーを付けるというやり方もあるんじゃないでしょうか。「戦う巫女さん」を描きたいのであれば、巫女さんが戦っても不自然ではない設定を考えればいいのです。

新妻エイジは、「漫画らしい漫画」が描ける人なのでしょうね。「ギューン」とか「プッシャー」とか、擬音を口走りながら書いていました。まだ頭で考えているサイコーやシュージンに対して、漫画を感覚的に理解しているようです。強いライバルだ。

ただ、編集の服部さんは、『一億分の』を読んで「行ける」と判断していました。未熟なところはあるにしても、成長速度も考慮して、十分デビューさせる価値があると考えたのでしょう。でも実際には、手塚賞には選ばれませんでした。何故でしょうか。

想像するに、新妻エイジがいるからではないかな。彼を「天才高校生」として売り出したいのであれば、中学生が手塚賞を取ってしまうのは、インパクトが薄れるので避けたいでしょう。僕が編集長ならそう考えます。このままだと、新妻エイジのプッシュが一段落するまでは、サイコーたちはお預けになりそう。それを打破するには、相当ながんばりが必要です。見守りたいですね。

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