メルクマール

かつて、『スター誕生！』という番組がありました。いわゆるオーディション番組で、予選を勝ち抜いたら歌手としてデビューできる、というものです。出身者は、中森明菜、小泉今日子等々、それこそ綺羅星のようなスターを輩出していました。

いまどきは『スター』って言わないですよね。それにふさわしい人が（国内には）居ないからでしょうけれど。AKB48は、スター不在時代を象徴しています。とにかく大量にデビューさせて、人気投票でプッシュする人をどんどん入れ替えていくという、マーケティング主導、つまり受け手が主導のやり方です。

想像ですけど、そういうアイドルは辛いのではないでしょうか。「ファンに望まれる自分」であり続ける必要があり、そうでなくなったら捨てられてしまう。そうやってファンやスタッフの期待に合わせるうちに、自分を見失うことはありそうです。　かのんは、まさにそういう状態でした。

彼女は、ファンに忘れられたアイドルの末路を間近で見ているので、いっそうその恐怖感があります。また誰も見てくれなくなるんじゃないかと。なので彼女は、容易に移ろってしまうファンやスタッフではなく、確かなものに救いを求めました。桂馬がずっと見てくれるなら、それだけでいい、と思うようになったのです。

それを突っぱねる桂馬が、とてもカッコイイですね。彼はなんだかんだ言いつつ、かのんの才能を認めているのでしょう。周りの期待を反射するのではなく、自分の力で輝くスターに、キミならきっとなれる、と励まします。

マネージャーも良かった。あのレーザーの演出や、かのんコールをやらせたのは彼女なのでしょう。彼女もかのんはスターになれると信じていて、ファンの声を聞けば、きっと戻ってくるはずだと考えたのですね。　そんな、桂馬とマネージャーのおかげで、かのんは自分を取り戻しました。そして、『スター誕生』の瞬間を、観客や視聴者は見ることになったのです。

アイドルと恋愛するストーリーは、アイドルと障害を乗り越えてくくっつくか、恋人がスターになるのを見届けて身を引くか、のどちらかですが、後者のほうが余韻があって好きですね。このエピソードも、その線で綺麗にまとめました。　
「私、一人のためにずっと歌っても、良かったんだよ。　じゃあね」　というかのんのセリフが切ないな。

シンプルなストーリーのわりに、3話使ってじっくりやったのは、ライブシーンをしっかり見せたかったからでしょう。たっぷり2曲分あり、制作は大変だったかと。動画枚数が多いだけじゃなく、ライブの演出を考えなければならないので美術も大変です。マクロスのような予算があるわけじゃないですからね。でも精一杯がんばっていて、効果的だったと思います。

かのんのイメージロゴは”星”のようで、いろんなところに星のデザインが散りばめていて、それも「スター誕生」のシーンを盛り上げていました。

5話、6話の展開はやや無理があるなと思いながら見ていましたが、ラストは綺麗にまとまった、いいストーリーでした。映像もいいし、この作品はもっと評価されていいと思いますね。

ポチっとして頂けると励みになります！↓