メルクマール

先日、『マリア様がみてる』の卒業式の巻を読んだのですが、あれとは対照的ですね。マリみてでは胸に花を付けるシーンで、まずは盛り上げますが、けいおん！！では、梓はモブキャラに花を付けていました。

卒業式のシーンでも、マリみてでは当然のように「泣くまいと我慢していたのに泣いてしまう」というドラマを盛り上げますが、けいおん！！では他のことに気を取られているうちに、式が終わってしまうという。でも、この力の抜け方がけいおん！！らしいでしょう。

彼女たちにとっての本番は、やはり『放課後』だしね。　ここで初めて、梓が涙を見せます。カバンが置かれたソファに卒業証書があるのを見て、本当に卒業してしまうということ、そして、こんなにカバンが集まることは当分無いのだということ、がリアルに迫ってきたようです。

やはり卒業式だから、感動で盛り上げたいところですが、あの4人組には”感動の涙”はあまり似合わないのです。努力したり、悩んだりということを見せず、サッパリしているのがけいおん！！だから。なので、その役目は梓が一手に担っています。

梓がメインの回は、5話、12話、13話、16話、22話など多いですが、それ以外でも、「梓が4人を観察している」シーンが多くあります。モノローグも梓が圧倒的に多いはず。それは、梓を視聴者の視点に置くためでした。梓の目で見ているので、梓に感情移入するわけです。

「卒業、しないでよ…」というセリフは、視聴者の気持ちを代弁したものです。4人組は泣かないけど、でも視聴者は泣きたいわけで、代わりに梓が泣いてくれました。「梓に贈る曲」を聴く間、完全に梓に感情移入していましたよね？　視聴者は「卒業する側」ではなく「卒業生を送る側」にいるのです。　これをやりたかったがために、これまで梓視点で描いてきた、と言ってもいいでしょう。

以前に、ブロガーのオフ会でMochi-Ponさんに、「メルクマールさんの感想を読んでいると、けいおんをだんだん好きになってるのが分かりますよね」と言われたのですが、実際、僕は当初、それほど好きじゃなかったのです。1期は感想を書いていないし、2期も当初はあまりノッていませんでした。努力もしなければ葛藤も無いという作品に、あまり共感できなかったから。

でも、この作品の見方が分かってからは、楽しめるようになりましたね。今では大好きです。現実世界には、悩みなんて掃いて捨てるほどあるから、そういうものと無縁の、楽しいだけの学園生活を見せる作品でしょう。凄いのは、学園生活のリアリティにはこだわりつつ、”楽しくないこと”は徹底して排除していることです。これは相反するはずですが、絶妙なバランスでそう感じさせない。

梓は、そのバランス装置でしょう。彼女には、悩みがあるんですよね。先輩達がいまいち不真面目だとか、先輩の卒業後はどうしようとか。そういう悩みは梓に一手に背負わせて、「でも先輩たちがいるから幸せだ」という心境にすることで昇華しています。それによって、視聴後に幸せな気持ちだけが残るのです。

とにかく、けいおん！！らしい、いい最終回でした。登場人物たちがわんわん泣いて、視聴者はそれにもらい泣き、という話にするのは簡単でしょう。でもそれではけいおん！！らしく無いわけで、そうはせず、サバサバした明るい基調でありながら、きっちり盛り上げるという難度の高いことをやってのけました。その裏には、梓を視聴者の分身にするための、シリーズ全体を通した緻密な構成があったわけです。優れた作品ですし、幸せな気持ちにさせてもらいました。

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