メルクマール

予備知識無しに見たのですが、典型的なゾンビテーマの脱出モノですね。サブタイトルは『ドーン・オブ・ザ・デッド』のオマージュでしょう。感染性のあるゾンビから逃げるという状況が同じで、警察に電話をするが繋がらない、というシーンもオマージュを感じさせます。

ゾンビということで『バイオハザード』を連想する方も多いでしょうけれど、僕はゲームで言えば『Left 4 Dead』ですね。日本ではマイナーですが、世界的に大ヒットしたゲームです。題名の通り、4人の男女がゾンビ（凶暴化するウイルスの感染者）の群れの中に取り残され、そこから協力して脱出するというもの。オンラインでの協力プレイが熱いですよ。

というわけで、良くある設定、というか一種の様式ですが、僕が凄くいいなと思ったのは、主人公とヒロインの関係ですね。主人公の孝はヒロインの麗が好きだが、麗は友人の永と付き合っている。そして孝は、麗を守るために永を殺すことになる。

孝と永は、どんな関係だったのでしょうか。手がかりは、孝が最初にゾンビを目撃して、教室に駆け込むシーンでしょう。彼は麗を連れ出そうとし、永のことは無視しています。つまり、孝は「麗を守れるのは永ではなく俺だ」と考えていて、永に対しては「自分でどうにでもしろ」と思っているのでしょう。彼らが大親友とは言えないことが、このシーンから推測できます。

なので、ゾンビ化した永と向き合った孝が、何を考えていたのかを想像すると、ゾクゾクするのですよ。彼は絶対、「ここで永を殺せば、自分が麗と付き合えるかもしれない」と考えたでしょう。そしてそう考えた自分に嫌悪感も抱いたはず。それでも、さっきまで友人だった人間をあまり躊躇せずに殺したのは、その情念の後押しがあったからだと思えます。

だから麗が、「孝は本当は永を嫌っていたのよ！　私と付き合っていたから！」となじったのは、かなり正しいはずで、図星を突かれた孝は麗の元を離れることにします。それは罪悪感もあるのだろうけど、「麗を困らせよう」という狙いがあったはず。一人で外に出る理由は何も無く、本気とは思えないから。

果たして、麗は大いに焦り、孝を引きとめようとします。このなりふりかまわぬ慌てっぷりがいいですね。ゾンビの中に置き去りにされるくらいなら、彼氏の仇であるはずの男にも頼ってしまう。その男が自分を好きなことも利用する。抱き寄せられたときに抵抗しなかったのは、そういう打算があったからだし、孝も「今なら抱いても抵抗されない」と思ったからああしたのでしょう。

ギリギリの状況に置かれた人間が、その本性をむき出しにしてどう行動するか、ということを描くアニメですね。夕暮れの屋上で、静かに抱き合う男女は一見美しい光景ですが、背後にはドロドロした打算が渦巻いていて、すぐそばには彼氏と友人の死体が転がっている、という狂気に満ちた状況に、とてもそそられます。

そんなわけで、この作品にはすごく期待していますね。今のところの新番組で、ダントツの期待株だと言えます。パニックなどの演出も良かった。不満があるとすれば、ホラー的な怖さがいまいち弱いことで。スプラッタなだけで、心理的にハラハラするとか、ゾンビが飛び出てびっくりする、というシーンはありません。ゾンビがいまいち強くないのが原因でしょうか。でもそのうち、強いゾンビも出るのでしょう。

ホラーにお色気は不可欠で、その点はバッチリですね。麗がムチムチしているのがいいな。生と死が隣り合わせの空間で、彼女は肉感的な、本能に訴える存在であるべきでしょう。

次回は、さらに脱出のための仲間が増えるようで。彼らとの関係も楽しみだなぁ。謎の軍隊も気になります。『HALF LIFE』（やはり海外でヒットしたホラーシューティングゲーム）みたいな展開になるのでしょうか。続きが待ちきれない気分です。

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