メルクマール

この物語のテーマは2つあると思えます。ひとつはリクが”家族”を見出すことで、もうひとつは、やはりリクが“恋人”を見出すことでしょう。

幼いころに家族を喪失して、そのせいで人格にいろいろ欠陥のあるリク君ですが、橋の下の住民と触れ合うことで、家族について考えるようになります。今回、父親と遊園地に行ったことを思い出したのも、彼らの影響でしょう。

このところの立ち退き騒動で、父親と本気でぶつかることで進展があるのかなと思ったのですが、そうはなりませんでした。たぶん、それでいいのでしょう。リクの心の失われたピースを埋めるものは、橋の下にあると思うからです。無理にぶつからなくても、いずれ自然に、父親と会える時が来るはずで、それがこの物語の終着点でしょう。

また、ニノとの関係も道半ばです。1話でいきなり恋人になったので、普通のラブストーリーであればここで終了ですが、あの二人の関係は恋人とは言えません。どちらかといえば、母と子供ですね。ニノは掴みどころが無いけれど、実はなにかとリクの世話を焼いていて、見守っていて、要所でリクの全てを赦すような言葉をかけてくれる。これは母親そのものです。

またリクも、キスされて有頂天になっていたけれど、これは母親的な愛に飢えていただけで、「今度は自分からキスしよう」という考えにはなりません。自分からニノに何かしてあげようという意識は薄くて、ニノから母親のぬくもりを受け取ろうとしているだけです。この二人の関係は、まだまだと言えるでしょう。

なので、ここで終わったのは少々残念、と思ったら、2期があるということで、分割2クールなんですね。ならばこれでいいのかな。

『大家族モノ』というジャンルのドラマが、流行した時代がありました。「時間ですよ」とかですね。大勢の人物が出るのでコメディを回しやすく、かつ家族愛を絡めた”いい話”をすることも出来るので、鉄板なスタイルだと言えます。でも最近見なくなったのは、”大家族”にあまりリアリティが無くなったからでしょう。

この作品では、橋の下の住民はひとつの家族のようなもので、そのコミカルな生態を描きつつ、リクが本当の家族や恋人について考える、という二重の構造になっています。現代風の『大家族モノ』と言えるでしょう。ギャグと、その裏にあるテーマ性との塩梅が絶妙な作品でした。シャフト演出との相性も良かったと思えます。

なにより音楽が良かったかな。僕は普段、BGMをそれほど気にしないのですが、この作品はBGMが耳に引っかかることが多かったですね。背景（バックグラウンド）のほとんどが橋の下で、単調なので、それをカバーするためにバックグラウンド・ミュージックが主張しているのでしょう。　全体にクオリティの高い作品でした。

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