メルクマール

今回のエピソードを見ていて、『魔女の宅急便』のような話だなと思いました。仕事を探すのにあたって、「自分のやりたいこと」と「自分にできること」は往々にして一致しないわけで、それが常に悩みの種です。でも、「自分に出来ることをやって、人に喜んでもらえれば、それが自分の喜びにもなる」というのが『魔女の宅急便』のメッセージであり、リク君もその心境になりつつあるのでは。

「お前の物の教え方って、分かりやすくていいんだよな」と言われて、赤面するリクが初々しい。ああいうストレートな褒め言葉に、実は慣れていないのかも。これまでのリク君が、あまり幸せで無かったことが偲ばれます。仕事と言えば”金儲け”しか思い浮かばない彼だったけれど、そもそも仕事って「人の役に立てばいいんだ」というシンプルなことに思い至ったのでしょう。これはリク君が、自分の欠けた部分を探し出す物語なんだな。そしてそれは、視聴者に問いかけていることでもあります。「あなたもリク君と同じで、何かを見失っていませんか」と。

教師って、教えるのが上手いだけじゃダメなんですよね。僕は学生時代の６年間、塾講師をしていて、教えるのは結構うまいかなと思っていましたが、教師になれるとは思いませんでした。田中芳樹の小説の言葉で、「最低の歌手が最低の人間とは限らないが、最低の教師は最低の人間だ」というのがあります。教師は”人格”がものをいうんですよね。自分のすべてを手本にしなければならない。

リクは橋の下の住民に「常識」を教えようという野望を持っていますが、それこそ難しいですよね。常識とは、ある集団における共通認識であり、集団が変われば違うものになります。日本ではクジラを食べるのは常識ですが、一部の国では非常識とされる、みたいな。最後は「リクも非常識であった」というオチでしたが、橋の下にいるのだから、橋の下の”常識”に染まるのは仕方ありますまい。

リクの「外の世界」の回想がしばしば入りますが、どれも辛い思い出のようです。　一方で、アバンに幻想的なモノローグが入っていて、前にもありましたが、それはリク君が橋の下の生活を大切に思っているという、内心の声ですね。　とはいえ、橋の下の“常識”に染まりすぎるのも問題なので、彼がそのあたりのバランスをうまく取って、人間的に成長できるのかが注目されます。

そう考えると、彼のあだ名の「リクルート」は、象徴的なのかもしれないな。橋の下で自分探しをしている人にふさわしい名前なのでしょう。

ポチっとして頂けると励みになります！↓