メルクマール

心に秘めた想いを、言葉にしなくても伝わって欲しいという気持ち。それが「君に届け」というタイトルに込められています。　言葉にしたら（告白したら）、「君に告げる」になっちゃいますからね。

爽子の風早に対する気持ちは、最初は”憧れ”だったけれど、次第に”恋心”へと替わり、もはや疑う余地もないと自覚しています。これは、爽子が想いを育てたのはもちろんだけれど、風早の爽子への気持ちが、着実に爽子へ「届いて」いて、爽子としては無意識的だろうけれど、それが恋心を盛り上げる要因の一つではあるはずです。

風早の方もそうですね。彼が爽子への気持ちを明確に意識したのは、爽子がクラスメイトの前で告白まがいのことをしたせいのはず。それは誤解だったけれど、爽子が風早のことを想っているのは、風早には確かに「届いて」いて、だからこそ彼も、時に大胆に振るまうことができたのでしょう。

「それじゃ」という素っ気ない言葉で別れた二人でしたが、重要なのは言葉ではなく、雪の夜の街を歩いたり、別れ際に合わせた視線だったり、そんな二人の時間が、お互いの気持ちを「届けて」いるのでした。

雪の夜は好きですね。雪化粧された街は常より綺麗で、ただの街灯の灯りを、舞台の照明のように反射します。街の雑音は雪に吸収され、自分が雪を踏みしめる音だけを聞きながら歩いていると、世界に自分しかいないような、あるいは古い映画の中に入ったような、そんな錯覚が得られるから。

この物語でも、二人だけで雪の中を歩くシーンは、BGMは流れずに、環境音と足音だけが聞こえています。静かなシーンだけれど、二人だけで、お互いの存在だけを意識している世界、というのが濃密に伝わってきて、いいなと思いましたね。

結局、告白はしなかったけれど、互いの気持ちが確実に「届いて」いることは確認できたので、あの二人はもう大丈夫だなと思えます。なので、ここでおしまいで良いのでしょう。二人が出会った一年が終わり、これから新しい一年が始まる、という節目なのもキリが良いから。

全体として、登場人物たちの恋心が、初々しく繊細に描かれていて、とても良い青春ストーリーでした。汚れちまった自分が、いくらかでも綺麗になれるような。

コメディシーンが妙に可愛かったり、くるみの告白シーンがドラマチックだったりと、演出の良さも印象的でした。声優さんの演技も良かった。心に残る作品になりましたね。

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