メルクマール

しっくり来ない大きな原因は、結局のところ、カナタたちの行動は時間稼ぎにしかなっていない、ということですね。確かに英雄的な行動で、タケミカヅチはかっこよかったし、アメイジング・グレイスもそれなりに感動的だったけれど、やったことは、数分間の時間を稼いだにすぎません。戦争が回避されたのは、あの場にリオが現れて停戦を告げたからで、彼女が来なければハッピーエンドにならなかったし、べつにカナタたちがいなくても同じだったんじゃないか、という疑問が頭に引っかかるのです。

この物語は、終始”音は響く”ということをテーマに据えていて、それ自体は良いと思えます。リオとカナタには、音による絆が作られていて、それが生きるシーンが今回もありました。そうやって積み上げてきたのに、その集大成が”ちょっとだけ時間稼ぎ”ということに、肩すかし感があるのです。

フィリシアの行動も、いまいちしっくり来ていなかったのですが、最後でわかりました。つまりホポキンズ大佐は、中央の意向に背いて、故意に戦争を起こそうとしたという、旧日本陸軍の関東軍的な役回りなのですね。大佐のほうが「反逆者」であり、フィリシアはそれを体を張って止めたという構図なので、上官の命令に背いたり、銃を向けたりしても処分されなかったらしい。

であれば、前回の時点から、そういう事情を示すべきだったのでは。その方が、「どうやってホポキンズ大佐の暴走を止めるのか」というサスペンスになって、より楽しめたと思えます。

炎の乙女の伝説の”ローマ版”は、とても面白かったですよ。セーズの街に伝わる伝説では、乙女が命と引き替えに街を救ったことになっているが、実は乙女を殺したのは街の人間で、それを隠蔽するために乙女を悲劇のヒロインに仕立て上げた、というのはありそうな話です。

しかも、ローマ版伝承のほうが、今回のストーリーにマッチするんですよね。　天使（アーイシャ）を匿った砦の乙女は、街の人間（ホポキンズ大佐たち）に攻撃されるが、そこに天使の大軍（ローマ軍）がやってきて、街（ヘルベチア軍）が攻撃されそうになる。でも角笛（トランペット）の音によって戦いを止める、という。　1話で語られた伝承を考証していた人をあざ笑うような、皮肉なお話でした。あっちは一種の偽史だったと。

全体としてですが、一風変わった異世界ファンタジーとして、それなりに楽しめるものではあったと思えます。現実世界と重なっているような、でも全然違うような不思議な世界は想像の余地がありました。　「終末に瀕した世界の物悲しさと美しさ」も表現されていました。

キャラについては、それほど思い入れは出来ませんでしたね。趣味の問題ではありますが、「見たまんま」のキャラでギャップが少なかったのが、いまいち萌えない理由かもしれません。　ただ、地味な軍服と私服とのギャップは確かにあり、なかなか新しいとは思いました。もっと私服を見たかったな。

いろいろ不満も書きましたが、楽しみに毎週見ていましたし、意欲作ではあったと思います。ハイクオリティなオリジナルアニメを作るという、”アニメノチカラ”プロジェクトには今後も期待したいところです。

ポチッとして頂けると励みになります！↓