メルクマール

くるみは、いわゆる”ピカレスク”なのですね。”悪漢”と訳されますが、孤高の存在で、生きるために悪事を犯す、そういう人物をテーマにした物語をピカレスク・ロマンといいます。

類型的な”悪役”は、たいてい徒党を組み、社会的あるいは物理的な力を持っているものですが、くるみは一人きりであり、何の力もありません。爽子が、いい友人たちに囲まれ、芽生えた恋愛を見守ってもらっているのとは対照的です。今回、特にそれが際立って描写されていました。ある種、くるみは作者から”贔屓”されています。

だから、くるみに感情移入してしまうんですよね。彼女の悪事は”生きるため”ではありませんが、「人はパンのみに生きるに非ず」で、中学から風早のことを一途に想ってきた彼女にとって、その想いは”生きること”に比肩するでしょう。　確かに彼女は酷いことをしたけれど、情状酌量の余地があります。

でもピンとの一件は、申し訳ないけど笑ってしまいました。自分が掘った落とし穴に、自分が鮮やかに落ちてしまう滑稽さ。ここで自嘲的な台詞でも吐けば、さらにピカレスクだったのですが、さすがにその余裕はありませんでした。

策がすべて裏目に出て、ついにくるみは追い詰められてしまいましたが、ここからどう出るか。くるみは”贔屓”されていますから、このままでは終わらないと思いたいところです。

でも、ピカレスク・ロマンの結末は、たいてい破滅なんですよね。いかに華麗に破滅するか、が見せ場だと言えます。くるみの運命はどうでしょうか。

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