地味なタイトル名のせいで、視聴を後回しにしていたのですが、予想外にもハードな政治・経済フィクションでした。シャングリ・ラ 第2話 『池袋呪海』 の感想。
二酸化炭素の排出権を債権化した『炭素市場』は実在するのですが、それが金融市場のように巨大化して、デリバティブや空売りを駆使するヘッジファンドが跋扈する世界になっている、という設定は面白いです。でも、そのあたりの知識が多少無いと、理解しにくいかもしれません。
僕も素人ですが、理解の範囲で解説してみますね。 まず基本からですが、『債権』とは、将来的にお金と交換できる権利です。お金が必要な人は、債権を発行して、それを誰かに買ってもらうことで、お金を得ることができます。例えば国債は債権の一種ですね。
千円の債権を千円で売っても、誰も買ってくれないので、利息をつけて売るわけですが、確実にお金になる債権であれば利息は低いし、紙くずになるリスクがある債権は利息が高くなります。利息をどれくらいに設定するかは重要ですが、「だいたいこんなもんかな」というノリで決められたりします。
そこに『金融工学』が登場します。債権の価格は、そういう”ノリ”ではなくて”理論値”があるはずだという考え方で、複雑な数式で”理論値”を計算し、理論値よりも安い債権は買い、高い債権は売る(空売りする)という取引をします。 特に、高い債権は積極的に売ることで、さらに市場価格が下がって、さらに利益を得ることができます。
以上は基本で、これにさらにいろんな要素を組み合わせて複雑化したものが、現代の金融市場です。債権の利益をあてにした債権、など、金融商品(デリバティブ)は複雑になる一方で、それらの価値を計算するための計算式も複雑になっていきます。
この物語では、炭素の排出権が債権化され、その債権を元にした複雑な派生商品が産まれているようです。そこには金融工学的な技術もあり、香凛の『メデューサ』(経済炭素予測システム)はそれなのでしょう。
今回、メデューサの動作がマンガチックに模式化されていました。メデューサは炭素市場を見渡して、債権の価値が理論値よりも高い市場を見つけ、そこに空売りを仕掛けてるようです。
空売りとは”将来、決めた値段で債権を売れる契約をする”ことです。 たとえば「1000円で売ります」という契約をして、その債権の価値が900円に下がったら、900円で買って1000円で売ることができるので、差額の100円が手元に残ります。メデューサは値下がりが予測される(不当に高い)市場を見つけ、さらに空売りすることでも値下がりを誘い、利益をがっぽり取るのでしょう。実際は、”買い”も含めたヘッジをしているはずですが、単純化するとこうなります。
これは、アジア通貨危機の図式と似ていて、もちろん意識しているのでしょうね。発展途上国を食い物にしているような描写もありました。 また、石田コーポレーションはLTCMがモデルではと思える描写もありました。 LTCMは、ノーベル賞受賞者などが設立して、ドリームチームと言われたヘッジファンドです。
では、債権を予測できる理論と、それを活用したシステムがあれば、確実に儲けられるのでしょうか? 否、世の中はそんなに単純ではありません。 債権の価値を計算できると言っても、あくまで”予測値”を組み合わせて”確率的”に計算しているだけであり、予測が想定外の範囲まで振れると計算は破綻します。LTCMは、ロシアの債務不履行が発端になって破綻しました。それは彼らの計算式には無かったのです。 香凛たち『カーボニスト』の運命はどうでしょうか。
石田カンパニーはマーシャル諸島にあるそうで、法人税の安いタックスヘイブンだからでしょうけれど、普通は登記だけそこにして、本体は別にあるものです。わざわざリアルな会社を置く理由は何でしょうか。実は香凛は温暖化を本気で憂いていて、水没の危機にあるマーシャル諸島にあえて身を置くことで、危機を肌身に感じたいということだったりしますか。
他にも書きたいことはあるのですが、難しい文章を長々と読まされれて食傷でしょうから、今回はこれくらいにしておきます。なんにしろ、なかなかの期待作だと思いました。個人的には、つるぺたよりもムチムチのほうが好きなのですが、それはそれとして。
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解説勉強になりますw5247
炭素市場については独特の考えで面白いですよね。現在の石油市場に通じるところがあり、さらにこの原作を読んでいたのが昨年の石油高騰の時期だったので、かなりタイムリーでしたね。
炭素市場について補足すると、まず炭素税というものが存在し、二酸化炭素を排出する工業製品全てに課せられています。各国共通の関税のようなものです。そして各国の炭素税は、炭素指数によって決定されます。要するに旧時代的である石油や石炭燃料・焼畑農業などに頼る発展途上国では、炭素指数がやたらと高くなり、税金もすごいことになっています。逆にいうと先進国では、石油素材から炭素素材に切り替えているので炭素指数は低く、税金も抑えられてるのです。あと、森林の多い国は二酸化炭素を吸収してくれるので、炭素指数は低くなります。
炭素指数は国連が、人工衛星イカロスから各地の熱量などを計測して決めています。
ここからが難しいのですが・・・経済炭素という概念がありまして、これは、各国に課せられた炭素目標値に対する実質炭素の利子です。要するに二酸化炭素をいつまでも放置していると、どんどん利子(経済炭素の量)が増え、経済炭素が増えると炭素指数やその他もろもろが上がって、経済的にピンチになるということです。
経済炭素は市場で変動し、株のような売買ができます。これを売買して利益を得る人をカーボニスト(香凜たち含)といいます。
(ちなみに余談ですが、近未来、日本は第二次関東大震災に見舞われ、復興に勤しむ日本が排出する二酸化炭素は膨大で、国の炭素指数も上がる一方でした。そこで政府が下した決断は、木々によって東京を森に変え、吸収する二酸化炭素を飛躍的に増大させるというものです。遺伝子操作をした植物は、急速な成長をくり返し、建物ごと飲み込む勢いで東京をどんどんと覆い尽くしていきました。それが國子がいる世界です)
メデューサは香凜たちが作ったAI搭載のスーパーコンピューターです。生存本能と強迫観念がプログラムされています。自分のいる島は水没寸前だとプログラムされているため、海面水位の上昇に繋がる二酸化炭素に過敏に反応します。だから命がけで炭素を減らそうと頑張ります。あの蛇の姿は香凜の趣味で、ホログラムのようなカンジです。ひとつ契約が成功すれば、ママである香凜はご褒美にメデューサの擬似海面水位を数%減らしてあげ、メデューサの水没危機が薄れるという仕組みです。ちなみに、香凜はマーシャル諸島に置いてあるメデューサを遠隔操作しているだけなので、現地にはいません。香凜はアトラス内にいます。地球温暖化(による水没)を本気で憂いてるのは、現地に置かれているメデューサ本体ですね。まぁ他にもメデューサがマーシャル諸島に置かれている理由はいくつかあるのですが。
関係ないですが、香凜は良くも悪くもお子様の域を脱してないですね。
香凜たちがやってる取引の仕組みは面倒なので、Wikiを転載します。
『契約国に課せられた1億トンの経済炭素を石田ファイナンスがヘッドリース、同時に、石田ファイナンスとL.T.C.I.がリース契約を結ぶ。石田ファイナンスが契約国からリースした経済炭素はL.T.C.I.へ移行される。
L.T.C.I.は契約国へ9500万トンの経済炭素をリースバック、これで帳簿上は500万トン分の経済炭素が消える。L.T.C.I.は負債引受銀行に85%、資産引受銀行に10%を返還。負債引受銀行は融資した炭素銀行に満額を返還するので損はしない。投資会社は税金の控除を受け、香凜たちは5%の仲介手数料を得る。』
この独特の経済に加え、國子たちの世界では、政府(涼子)・アトラス公社・石田ファイナンス(香凜たち)・メタルエイジ・秋葉原が様々な思惑で動いているのが厄介なところです(それが複雑に絡み合うから面白いんですが)。
いろいろと設定が変わってたり、尺の関係で端折られてたりするので、これからどう展開していくのか楽しみです。
國子は原作では野性味溢れる美少女だったはずなんですが、お子様っぽくなってるのが残念です。
そういえば、『狼と香辛料』でも経済の解説してましたね(笑。詳しいわけではないのですが、好きなので、つい書いてしまいます。参考になると言っていただけるのであれば、張り合いがあります。
■おりさん、コメントありがとうございます!
私こそ!楽しみにして下さる方がいるということは何より嬉しいです。最近忙しくなってしまったのですが、このアニメのレビューはがんばって書きますよ。
■綺羅さん、コメントありがとうございます!
ブログ拝見してますよ。数少ない原作既読の方のご意見は参考になります。
なるほど、炭素市場は、石油など先物の要素も入っているのかもしれませんね。債権や通貨のことしか考えていませんでしたが。
『経済炭素』は、炭素排出権の先物取引かなと思いました。デリバティブも込みの。
ああ、カリンがマーシャル諸島にいるわけではないのですか。ちょっとわかりにくかったですが、それほど重要なことではないのでしょう。
Wikiの話は興味深い。投資銀行などがやる、損出付け替えビジネスっぽいです。『経済炭素』の利回り?が一定以上であることを前提としていて、あてが外れると損出が何倍にもなって返ってくるような仕組みに見えます。
やはり、なかなか骨太な経済フィクションみたいですね。これが全体的なストーリーにどうかかわってくるのか、いろいろ楽しみです。
シャングリ・ラの原作は600ページにも及ぶ長編なので、これをアニメにするには相当な苦労があったのではないかと思います。たぶん初見の方は置いてけぼり感があると思い、長々と説明しちゃいました。すいません。
経済だけでなく宗教的な話も絡んでくる壮大なスケールのお話です。原作通りならば、全ての登場人物がそれぞれ複雑に絡みあい、物事一つ一つに意味を持ち、伏線となっています(アニメでは初登場人物も増えてますが)。そういう意味では、香凜がアトラス内にいるのは意味があるといえますね。香凜の仲間たち(貧乏なクラリス、チャン、タルシャン)にも要注目ですよ。
宗教も絡むのですか。これ2クールやるんでしたっけ?原作のエッセンスを再現してくれることを期待します。